研究会について
社会鍼灸学研究会設立趣意
日本の鍼灸は江戸時代までは漢方医学に包括され、幕府の認める正当な医学であった。もちろん今でも東洋医学の一翼を担っていることは言うまでもないが、現在の日本の鍼灸は漢方医学からは切り離され、独自の立場で日本の健康の一翼を担っている。
明治時代以降も、鍼灸は真摯な治療家や庶民に支えられて発展し、現在では、業団体や学術団体がその社会的な立場を下支えしている。
また、世界に眼を向けると、中国では1949年の中華人民共和国建国から国家を挙げて中医学の発展に力を入れ、現在では病院を附設した中医薬大学を国内に7校抱えるまでになった。また、1997年の米国の声明や、2000年の英国レポートなどでは鍼に対する一定の効果を認めており、2003年からはWHOの主導で経穴部位の国際標準化、用語の国際標準化、臨床研究方法のガイドラインの作成、伝統医学情報の世界的なデータベース作りの準備などの動きが現在進行中である。
日本国内でも、1970年代から90年代にかけて3鍼灸大学が開設され、2007年までに、既存の2大学に鍼灸学科が新設され、さらに1大学が新設されるなど、高等教育機関の増加が予測され、今後、鍼灸に関する科学的な研究がさらに盛んになることが予想される。しかし、日本の鍼灸研究は、医学的な見地からの基礎研究や臨床研究が中心で、他の研究分野や研究者の数は少ない。このことは、本分野の学術的発展を考えるとき、その思想的、哲学的基盤が脆弱な、総合力に欠ける分野になってしまうことが危惧される。
このような観点から、日本における鍼灸の社会的な立場や地位を歴史的、社会的に的確に把握し、現代および将来において、鍼灸(臨床分野だけではなく)へ投げかけられる諸問題に的確に答え、かつ社会変動に迅速に対処することできる力量を備えることが、現在の日本鍼灸界に必要であることを強く感じている。
そのため、社会学的な手法をもって鍼灸に関する総合的な事柄の議論を深め研究することが必要であると考え、本研究会を創設するものである。
それぞれの立場で忌憚のない意見をいただき、日本の鍼灸の発展に貢献することはもとより、世界の鍼灸の発展に少しでも寄与する何らかの成果を発信できることを目指したい。
社会鍼灸学研究会 形井秀一 箕輪政博
2006年4月