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洞峰パーク鍼灸院 ーつくば国際鍼灸研究所ー

コロナウイルスと鍼灸

コロナウイルスと鍼灸

洞峰パーク鍼灸院

院長 形井秀一

 

コロナウイルスが世界を席巻し、日本は感染爆発寸前の状況だと、人々は戦々恐々としています。しかし、歴史を振り返ってみると、人類が都市を形成するようになったここ数千年の間にも、コロナウイルスのように、病原微生物が人々の生命を脅かすことは、たびたび起こったことです。医学の歴史は、ある意味、感染症との戦いの歴史でもあるわけです。

ところで、2千年以上前に誕生した東洋医学では、自然環境が急変したことで、体調を壊したり、病気になったりすることを身体の外にある邪気が侵入したと捉え、その邪気を、風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪の5つに分類しました。春夏秋冬、それぞれの季節を形作る要素である風寒暑湿燥が、人体に悪影響することが病気の一因と昔の人々は考えたのです。従って、風(ふう)の邪が身体を冒して発病した状態を風邪(ふうじゃ)といいますが、それが現在一般的に使われているカゼという言葉のモトとなった概念です。

しかしもちろん、季節変動の影響とは別に感染性の病気が蔓延することも、人類は歴史上たびたび経験しています。それを東洋医学では疫癘(疫戻、えきれい)と言いました。疫癘は、感染力の強い伝染性の病気だと考えられ、今回のコロナウイルスは、令和時代の疫癘と言えるでしょう。このコロナウイルスが人々に恐れられている一番の理由は、対処する薬剤が開発されていないことです。

実は、東洋医学が、6世紀に日本伝播されてからは、明治時代まで日本の医学の中心であったのですが、その2000年近い間もほとんどが、抗生物質やワクチンがない時代でした。

では、そのような抗生物質やワクチンがない時代に、東洋医学はどの様に邪気や疫癘に立ち向かっていたのでしょうか。

東洋医学では、草根木皮を原材料とした飲み薬(漢方薬)と、体表に刺激を与える鍼や灸が代表的な治療法です。しかし、さらに健康の基本と考えていたのが、自分の治る力、つまり、「治癒力」を最大限に発揮して、健康を維持増進することや予防を重視することです。

実は、1997年の『厚生白書』では、東洋医学の原典である『素問』から引用する形で、疾患の治療に重点を置くよりも、これからの健康の在り方として「治未病(病む前に治す)」が大事であると指摘しました。これらの「治癒力」と「治未病」の考え方が基礎となって、東洋医学では最も基本となる「養生」の考え方が成り立ちます。養生は現代的に言うと「セルフケア」ということです。「養生」をし、健康に努め、病気に傾きかけたら早めに治す、ということが、東洋医学の基本的な病気対処法だと言うことです。

鍼灸は、薬の成分を身体の中に入れる治療法ではありません。しかしながら、痛みなどの外科的問題から、消化器系・産婦人科系・泌尿器系などの幅広い内科的問題、また、不定愁訴や心理的問題まで対応します。それは、先に述べたように、病む人自身の治癒力を最大限発揮できるようにする治療法であるということから、お分かりいただけると思います。

また、長く、東洋医学を国の医学としてきた中国や日本には、自分の持つ治癒力を最大限に活用する方法を医師や医療人ではない一般の人々が日々実践してきた歴史があります。

日本には、『喫茶養生記』や『養生訓』といった「養生」という名の付いた書籍はもとより、『徒然草』などの一般書まで、「養生」のための健康法の実践を奨めています。日々の暮らしにおいて、臥床や起床の時間を規則正しく、食事の内容や食べ方に気を配り、常日頃の心もちを平静に保つことで「治癒力」を高め、そしてまた、三里に灸を据えるなど、自分でできる「治未病」の方法の実践を推奨しているのです。

これらのことが、「治癒力」を高めることに繋がっていたのではないかと思います。「養生」を踏まえた生活を実践することは、現代医学的には、自律神経のバランスを調え、ホルモンの分泌を調整し、免疫力を高めることです。このことが、つまり「治癒力」を高めることに繋がるわけです。そして、「治癒力」を高めることを側面から援助するのが、漢方薬や鍼灸です。

世界一長生きした男と言われた医師・原志免太郎は、灸の研究で博士号を取得しましたが、三里に灸することを患者に勧め、自らも死ぬまで灸を実践した人でした。三里の灸は、薬物のような速効性があるものではありませんが、自身の治る力を高める方法として昔から行われてきました。例えば、松尾芭蕉が『奥の細道』の旅に出る前に三里に灸をして出かけたことは、よく知られたことです。

三里に灸をすえることなども含め、身体の「治癒力」を高める「養生」を心掛けられることを願っています。

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